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             ・   反乱翌日    ・

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 9名それぞれが、当然の事ながら今までの豪邸に住むことは許可されなかった。

 昨日までの生活がウソのように半分罪人あつかいの粗末な宿舎に、放りこまれ各人にそれぞれ3名の見張りがつくようになった。

 とくに本間と十兵衛とその部下は首謀者として独房に入れられてしまい頑丈な鍵が2ケ所にかけられた。

 あとの8人のメンバーはおのおの元の部署に戻り仕事にはつかされたが、トイレ行くにも見張りが付いてくるような厳しい監視つきで仕事に従事させられたのであった。

 しかしもともとがずば抜けて才能がある人間たちばかりであったので見張りがあろうと不自由な身分であろうと各部署での働きは目をみはるものがあった。

 桐生は低温増速原子炉の開発を中心に20名のスタッフの教育と彼の持っている最高の技術を惜しげもなく供与をした。

 もともとここのスタッフは彼のレベルと理論に心酔していたため、謀反を起した事によって扱いが変わる事はなかった。このおかげで今までのようにスムーズに仕事ができた。

 前島は国立病院の脳外科部長となり、恵まれた施設と無尽蔵の予算でこの国の脳外科手術の技術アップと彼本来の専門とは別のエイズ特効薬の開発プロジェクトのリーダーを務めている。

 彼は日本でも国立病院にいたが、あまりの周りの人間の拝金主義と医者のモラルの無さに失望して西成に身をおいた事はスタッフ全員が知っていたのである。同じ医学に従事する人間として前島の行動は彼らにとって無条件に称賛に値したのであった。

 

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           ・   建築家 相原    ・

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 相原は、首都ウラノスと、対岸の居住区である人口島エンケラドスに橋を架けるプロジェクトのトップである。

総工費20億ペリオン、日本円にして約120億円の大事業である。

日本の橋梁技術は世界でもトップ水準にあり、その中でも相原の技術を習得できるとあって建設省役員とその技術者たちは少しでも多くの事を学ぼうと時間を惜しまず彼の指示通り仕事に従事していた。

 現場の建設に携わる人夫は「ホテルウラノス」住まいの同僚たち170名を率先して使った。相原はやはり日本語とくに大阪弁で仕事ができるほうが作業もはかどった。

 彼の才能は世界建築大賞で証明済みである。

 過去この賞をねたんで同業他社の人間が彼の建築作品の材料に安価の資材を投入したばっかりに、耐久性能の低さを指定されひいては資材業者から賄賂をもらっているとの悪評が流された。こんなくだらない腐った世界がいやになって大阪に流れこんだのである。

 半分まで完成した橋の巨大な橋脚を見上げながら相原は日本でのいまわしい出来事を回想していた。

 1992年、ストックホルム・世界建築大賞授賞式

 誰の目にも大賞は前年に引き続き日本の「アイハラ」が受賞することは明らかであった。

本年度彼の設計した「アトランタセントラルタワー」の投票数が2位との差を大きく引き離していたのだ。

「1992年世界建築大賞受賞者を発表します」

次の瞬間、カクテルライトの中相原は壇上に上がる準備をして。発表を待った。

「受賞者は、アメリカのノーマン・クライン!」

場内が「どっ」とどよめいた。そのはずである当選確実の「アイハラ」の名前ではなく2位のクラインの名前が呼ばれたからである。

「なぜだ?」

「なお、本来大賞を受賞するはずであったミスターアイハラの『アトランタセントラルタワー』は原材料の耐久性のなさを指摘する声があり綿密な検査の結果デザインでは大きくリードしていたが「安全、環境面」から大賞には及びませんでしたことをここにご報告いたします。」

「なぜだ!材料も最高のものを使用したはずだ。それだけの資金を使ったのになぜだ・・・」

彼は確かに材料の選択は最高の品質を選びその決済まで確認したのであるが、昨年の彼の受賞をねたんで材料供給会社が安価な材料を供給しそのまま建設が行われ完成に至ったことは彼の知らないところであった。

 

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           ・   天才プログラマー 東野    ・

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 東野は、アメリカのグレン型に負けないような大型スーパーコンピュータの開発担当を務めていた。

 1978年8月彼のOSソフトは世にでる前に産業スパイの手によってマザーフロッピーが持ち出され、翌月アメリカのミクロ・ソフト社からそのパテントが出願されてしまった。予想されていた儲けは何兆円にもなる。

 現在ミクロソフト社は「ドアーズ95」というOSソフトを新しく開発してその企業利益は何10兆円とも言われているがその礎ともいうべきソフトが東野の開発であった事を知る人は少ない。

 ヒペリオン国のコンピュータ技師たちはどこからかこの情報を入手しており同業者として同情の目をもって接してくれていた。

 谷は日本の大蔵省にあたる、経済省の次官となって、通貨の管理と税金問題のリーダー的存在となった。

 北川は、国立地質研究所で新しい海底油田の発掘に携わっている。彼の地震理論は突出していてその地震予知に関しては世界レベルであった。

 富士は国立物理学研究所の所長として活躍した。彼は自分が主張していた新説相対性理論を学会で受け入れられなかったばかりか狂人あつかいされたので、この世を捨てた。

 

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          ・   兵器博士 森    ・

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 森はヒぺリオン陸軍の兵器研究所で無反動銃の開発リーダーとなっていた。

また殺人のための道具を開発させられると思うと悔しくて仕方がなかった。

 彼は三葉重工時代に自分の開発した兵器でアフガンの非戦闘員が大量殺戮された事によってこの仕事を捨てたのである。

 森はある日港湾軍事施設内のいちばん奥にある天然の洞窟に案内された。

 縦横50メートルほどの大きな扉が観音開きにゆっくりと開いた。

その奥からひんやりとした空気が流れてきてよく目を凝らすと真っ暗な洞窟の中に巨大なドックがあるようであった。

 「この場所は超軍事機密で極秘中の極秘です。さあ中へどうぞ。」

 「かなり大きな空間のようやけど、この中になにがあるんや?」

 「ミスター森。この化物に見覚えがないか?オイ照明をいれろ!」

 バッバッと一斉に明かりが付いた。

 「こっこれは・・・・まさか・・・・」くわえていたタバコを思わず口から落としながらうめくように森は言った。

  森の目に飛び込んできたものは長さ300メートル高さ50メートルほどの巨大な軍艦であった。

「大和・・・いや大和は九州坊が崎沖で沈んだはずだ・・・しかしこの形はまぎれもなく大和」 「いえ、われわれは『ムサシ』と聞いております。」

 「排水量67000トン、全長263メートル、幅38メートル、46センチ主砲9門、15、5センチ副砲6門、12、7センチ高角砲・・・・」見上げながら自然に森はつぶやいた。

 「日本男児としてまさか本物の武蔵に出会えるとは・・・ほんまに大きかったんやな」

 昭和19年10月レイテ海戦、日本の敗北がほぼ確定していた時期、大本営はフィリピンの要所レイテを死守するために無謀な作戦をたてた。いわゆる「捷一号作戦」である。太平洋のハルゼー提督を囮艦隊である小沢治三郎中将率いる空母艦隊で引き付けておきながら、本隊は一気にレイテに殴りこもうという、もう作戦とは呼べない決死の艦隊特攻であった。司令長官は栗田健夫中将で艦隊総数三十九隻からなる艦隊は文字どおり最後の決戦であった。

 その時戦艦「大和」「武蔵」も随行していたのであった。

 67000トンの武蔵はシブヤン海域に入る前に米軍の格好の標的となった。朝から5波にわたるアメリカ軍の雷爆撃機の攻撃を受け、二十発以上の魚雷と三十発以上の直撃弾をくらいさすがの浮沈戦艦も夕方七時にはゆっくりと海中へ沈んでいったのであった。

 鳥取出身の猪口艦長をして「被害担当艦」という言葉を使ったほど米軍のすべての攻撃を一手に引き受けた形となった。

 戦後、連合軍の調査の結果、「大和」はソナーで400メートル海底に確認されていたが、「武蔵」だけは周辺海域をくまなく調べてもその存在は確認されず不明のまま調査が打切りとなっていたのであった。

 おそらく千以上の防水隔室のため沈んでもなお浮力が残っておりシブヤン海をさまよっているのであろうという憶測であった。

 「しかしまたなんで武蔵がここにあるんや・・・・」

 「1946年5月の大暴風雨の早朝、首都からさほ遠くない海岸に漂着し、座礁したのです。漁師の報告を受けた海軍が急ぎ現場の海岸へ行きましたらこの巨大戦艦が海岸に横たわっていました。あの時は国民全員が驚きました。」

 話によると終戦の翌年に戦艦武蔵は1000を超える英霊とともにズタズタの艦体のまま海流にのってヒペリオンに流れ付いたのであった。

 「艦内にあった兵士の遺体はその時丁重に、丘の上の英霊の墓に納めました。しかし相当ひどい戦いだったようですね。艦橋の羅針盤に綱で縛られていた遺体がありましたがあれが艦長ですか?すごい敢闘精神ですね。」

 ドックに入れられ牡蛎がらを落とし、魚雷と爆弾の穴を修復した山のような「武蔵」を前にして森は言いようの興奮と感動を覚えた。

無意識のうちに合掌しながら

 「で、これをオレにどうしろというのだ?」

 「あなたの腕で最新鋭の戦艦に蘇らせて欲しい」

 「最新鋭の戦艦にか・・・いとしの娘を整形するような気分やな・・・・」

 

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            ・   武蔵 改造   ・

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 その後森は武蔵の修復、改造に懸命に取り組んだ。

兵器を見るのもいやだった彼は、子供のころからのあこがれの本物の「武蔵」に出会えた興奮としかもその「武蔵」を自分が改造できる喜びでいっぱいであったのだ。

 一言で「修復」するといっても世界一の戦艦である。その作業区画たるや半端な数ではない。

彼の監督のもと国内から大勢の作業員が召集された。

 日本海軍の公式記録によれば「武蔵」がくらった魚雷は20発であったが、実際は32発であったことがわかった。

命中爆弾の数は大小入れて20発は食らっていた。

最後まで使用可能であったろう砲塔は2番砲塔だけであった。

 「よう、辛抱したのう・・・」と森は「武蔵」の甲板に立ち装甲板をさすりながらつぶやいた。

ヒペリオンの最新の鉄鋼技術と、冶金技術を駆使して6ヶ月の間ドックの中は昼夜問わずに作業音が途絶えることはなかった。

損傷の特にひどかった第一砲塔の火薬庫をはじめとして、ほとんどの被爆した部署には新しい鋼板がすえつけられ、4基あった機関室も現代の新しいタービンに切り替えた。このことによって当時15万馬力あったものが倍以上の35万馬力になり速力も27ノットから32ノットまで上がるよう設計された。

かつて副砲塔があった場所には最新鋭のロケットランチャーが装備され、第三砲塔やカタパルトがあった後部甲板は戦闘ヘリコプターの発着甲板として広く使えるように設計した。

艦橋の両脇にズラリとならんでいた12.7センチの高角砲塔群は自動ファランクス砲群と変わりピカピカの銃身がハリネズミのように上を向いていた。

基本型は「武蔵」のシルエットを残して内容は最新鋭の巡航ロケット装備戦艦に変身を遂げたのであった。

 

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            ・    半年後     ・

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 本間を除く全員が真面目に、国家再建に取り組んだかいあって、ようやく元のVIP待遇にもどった。

 全員がもとの邸宅に戻った。いとしの秘書たちもお待ちかねのようであった。

 「おい、ちょっとみんなに相談がある。」電話で桐生が全員に声をかけ自分の家に招いた。この時はすでに見張り兵の数も減っていた。

 「おい、みんな聞いてくれトンさんが新しい通信ソフトを開発したらしい。トンさん説明してくれ。」

 「ああ、いままでのようにわれわれは暗号で会話していたが盗聴されていることと、やはり暗号なので理解できにくい部分が多々あったと思う。そこで

このモデムを使ってみんなの電話からインターネットにアクセスしてくれ。アメリカに置いてあるワシのサーバにアクセスしてくれたら電話会議が開けるシステムや。勿論パスワードがあるのでこれを知らない人間のアクセスは絶対不可能や。ハッカー防止用のファイヤーウオールといって防護壁をつけてあるから盗聴の懸念は一切ない。この防護壁を破るハッカーがいたら100万ドル懸賞金かけてもええわ。とにかく全員のパスワードを渡すから今後の会話はこの電子会議室でやろうや。」

 

 「リョウさん、また謀反の話かいな、それやったらもう乗らへんで」

 「違う、ワシもいろいろ考えたんだが今まではわれわれがこの国から逃げる事ばかり考えていたが、今度は逆にこの国の資源と財力をつかって、日本以上の国家を本当に作ってやりたくなったんだ、むしろ国家というよりはもっと超越した組織をだ。」

 「盗聴されてるからって、気を遣わなくてもいいから本心を言ってくれ」

 「いや、マジに考えてるんだ、今の世界は長い間の冷戦構造がくずれ平和ボケしてるようだが実はそうじゃない、単に米ソが戦っていたのが国をかえて同じ事を続けているだけだ、現に国連も手出しができない状況が世界各地ある。ボスニアを見てみろ。」

 「それと、ヒペリオンがなんの関係があるんだ?」

 「最後まで聞いてくれ、オレたちは大阪で乞食同然の生活はしていたが、心までは貧乏していたわけじゃあなかった、そうだろ?」

 「そうだ、みんな夢はもっていたはずだよなあ」

 「国連が無力化した現在、こいつらの資源と財力で第二の国連を作ろう。どうだ、どでかい夢だろう、どうせ日本に帰ってもデタラメな政治家たちと自分達の利益しか考えない企業が待ってるだけだ、あんなもの国家じゃあない」

 「そうだ、ワシも今回日本という国をよくよく考えてみたんだが、ムチャクチャな政治家とそれを野放しにしている国民たち、銀行がブッ潰れているのにまだ安全だといって平気で預金している国民たち、モルモットになってるのも知らず厚生省と医者を崇拝している風潮を見てみると知識水準は高いが事態の判断能力はゼロに等しい国家かもしれん」

 「そうだなあ、日本古来の勧善懲悪というものはすでに過去の産物となってている。」

 「世界史上、こんなバカげた国家はおそらく初めてとちゃうか?」

 「それだけの裏切りがありながらもくもくと去勢されたヒツジみたいに働く国民たちを見ていると哀れでならん。無能な政治家を選んだのも国民の責任やからなあ」

 「な、すべてがそう思うだろう?日本の悪口はあまり言いたくはないがいずれにしてもそれが事実であるのは間違いない事だ」

 「しかし亮さん、第2の国連の発想は悪くないが、その前にこのヒペリオン国を民主化することが先決じゃあないのか」と相原

 「そうだヤペトウスのおっさんがいたんじゃあ、国連もクソもないで」

 「のんびりした風土だからなあ、はたしてできるかなあ」

 いきなりコンピュータの画面が乱れて別の人間がアクセスしてきた。

 「諸君、ダイモスだ。今日は初めて心を許して君たちと話ができそうだ。実はこの国に民主化が必要とおもっているのはキミたちばかりじゃあない。」

 「博士どうしてここに?」富士が尋ねた

 「突然すまない、桐生さんの秘書に今夜みなさんの会合がインターネット上であると聞いたものでね。」

 「この電子会議室のファイアーウオールは絶対破れないと自信があったんですがねえ。さすがは博士だ。懸賞金をあげたい気分だ。」東野が称賛した。

 「さっきの博士の話だと革命軍がヒペリオンにすでに存在するという事ですか?しかし博士自身、そうなったらお困りでしょう?」

 「旧日本軍が占領するまではヒペリオンは平和な国であった。そのころの国王はジェミニといってよく民衆を治めていたのが日本の占領軍とともに傀儡政権が樹立した。それが今のヤペトウス政権だ。この無茶苦茶な政権に未練はない。かまわんよ、どうせ一度の人生だ、この何ヵ月でキミたちの能力をしかと確認させてもらった。この国のためだけに使うのはあまりにも惜しい」

 「博士は科学だけでなく政治にも興味があったんですか?」

 「この国はどのようにイメージされてたかは知らんが、たしかに石油によって金がうなってる事はまちがいない。しかしその金のうち99%を国民のわずか1%の上流階級たちが独占しているのが事実だ。北川君とかいったな、君が海底油田で見た人たちがいただろう?彼らは一日じゅう重労働させられているが給料は満足にもらっていないんだ。あの中には前の王朝であるジェミニの一族が多数働いている。こんな環境だから政治に興味を持たぬはずはないよ。」

 「たしかに海底油田の労働環境は最悪でした。あれじゃあまるで奴隷だ。」

 「そうだろう、首都ウラノスだけは諸外国への看板用に飾ってはいるが、一歩裏へまわれば本当は国民は飢えているんだよ。近々若い革命のリーダーを紹介する、彼はケレスといってジェミニ王朝の末裔でもありヒペリオン代表の有名なサッカー選手だ。日本にも何度か試合で行っているはずから中にはご存じの方もいるだろう。それともうひとつ、君たちの考え方は革命後の軍事主体でない国連創設の発想だがその事自体もは決して不可能ではない」 

 「しかしそれには軍事に変わる強力な抑止力がいるだろう」

 「そうだ、でないといつまでも今のままだ」

 「あるんだよ、それが。ミスター富士あなたの出番ですよ。二年ほどまえからほぼ完成している永久機関をお見せしましょう。」

 「なに、永久機関ができていたのか?しかし永久機関は19世紀末に科学は引導を渡したはずだろう。研究所ではそんな話は一度も聞いていない」

 「はい、われわれだけの極秘プロジェクトです。もちろんヤペトウス国王もフェーペ大臣もまったく知らない事です。第一種永久機関はたしかに科学はギヴアップしましたが、われわれの作品は第2種永久機関なんです。この発明はまだ八合目で未完成ですが実用に耐えるようにするのは、ミスター富士、あなたにお任せします、あなたはアインシュタインの相対性理論を全部理解されている、決して難しい注文ではないはずだ」

 「うーんアインシュタインの法則では逆に否定されているシロモノなんだがなあ、わかった、一度拝見してから考えよう」

 「よし、明日から具体的な動きに移ろう」

 「待ってください、その前に皆さんに打ち明けたい事がある、特に坊主にはあやまらなくてはならない。」とポツリと谷が言い始めた。

 「実はこの前の反乱計画を洩らしたのは私なんだ、坊主は無実だったんだ。スマン」

 「なんで、タニヤンが!まさか!」

 「いや事実なんだ、フェーペのおっさんにうまいこと騙された・・・今日の会合の結果も逐一おっさんに報告するよう言い使って来た・・・ウラノス駅の30名を殺したのは私のようなものだ、あの中にはゲンもマッキーもいた・・・すまん」

 「なんやと、オレは濡れ衣を着せられたんやぞ。」と北川

 「坊主、ほんとにすまん。」

 「かまへんよ、タニヤンもう済んだ事だ。それより折角正直に言ってくれたんだ、もう一回一致団結して頑張ろうヤ、なあ坊主?」

 「それと博士革命軍の拠点となるような場所はどこかにないですか?」

 「それやったらあるで」と森が言った。

 「オヤジ、どこにあるんや?極秘の場所やなかったらあかんで。」

 「完成してからビックリさそ思て言わへんかったんやけど、実は戦艦『武蔵』があるんや。ホンマやでえ。」

 「何!『武蔵』って太平洋戦争の時のあの『武蔵』か?なんでまたここに?」

 「そうや、かわいそうにえらい傷だらけやったでえ。それをワシが改造してピカピカの最新鋭戦艦にしている最中や。」

 この日から民主化の動きと永久機関の実用化の研究が始まった

 9名の意識は、前回は単純に200名とともに日本に帰りたいという理由であったが、今回は現政権を倒して新政府を起こし新しい理想国家を作るという夢があった。加えてそれをサポートする人たちが国内に多数いたことでまったくパワーが違った。

 革命とは3段階必要である

 1 啓蒙する人     ケレスとダイモス教授が中心となって革命軍を組織する

 2 実行する人     本間と十兵衛が中心となって訓練所の兵を動す

 3 新政府を担当する人 一応本間政権という形をとる

 革命軍首謀者ケレスから首都ウラノスに潜伏してある部下に指示が出た

 

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          ・   ハレー地区   ・

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 ウラノスから距離にして東ヘ20キロほどにハレー地区と呼ばれる低所得者層の住む町がある。ちょうど西成と同じような雰囲気の場所であった。人口は約二万人で人々は石油、鉱物資源の採掘、エウロペ港の港湾労働に従事していた。

 若者達は強制的に徴兵されているため残っているのは老人と子供たちだけで、ご多分にもれず町全体の活気はなかった。 日本の農村が抱えている問題と同じくいわゆる「3ちゃん農業」でさとうきび、タロイモ、米などを作って自活していた。

 しかし旧ジェミニ王朝時代のハイクラスだった人間が住んでいるため学識レベルは高かった。そのため劣悪な環境下とはいえ、医療、教育、警察等の自治はすべて機能的に行なわれていたのである。

 革命軍の本部はイカロス爺さんの家の地下にあった。これを密かに戦艦『武蔵』に移した

 イカロス爺さんは旧ジェミニ政権時の陸軍参謀で、ケレスの率いる革命軍の知恵袋である。彼は国立物理学研究所のダイモス教授の伯父さんにもあたる。

 彼を中心とした革命組織はもとよりこのハレー地区の住民の多くは現政権に対して並々ならぬ憎悪を抱いており常々反乱のスキを窺っていたところに日本からやってきたエリート9名たちの革命未遂の事件を知り、なんとか秘かに連携をとろうとアプローチの機会を狙っていたのであった。

 平行してイカロス爺さんは陸軍人事課に所属している息子のヤヌスに各兵士のヒペリオン国に対する忠誠度を調べさせていたのであった。結果は陸海軍あわせて、なんらかの不平不満を国家に抱いているものは少なく見積もっても7割に達していた。ほとんどが過度の薄給と前時代的な強制徴兵のためであった。

 

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           ・   革命軍蜂起   ・

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 革命実行日は建国記念日である10月6日とした。

 この日は毎年、首都ウラノスの国立競技場で国技であるサッカーの親善試合が行なわれる事になっていた。今年の相手国はアジアでも屈指の強豪国タイである。

 ケレスは石油採掘の重労働をしながらもヒペリオン代表サッカーチームののキャプテンを務めているのだ。何度もヨーロッパのプロリーグから移籍の話がでていたが国王の国外移住の許可がおりなかったのである。

 建国記念日のウラノス市街は一日中お祭り騒ぎで、各交差点には武装した兵士が配置されていた。

 イカロス爺さんは当日、どこの交差点に革命勢力側の兵士が配置されているかを地図の上に虫ピンをたてながら作戦を練った。あらかじめ味方の兵士には黄色いバンダナを配っておき胸ポケットからのぞかせておくよう指示しておいた。

 サッカーの親善試合のキックオフは午後5時。このゲームの後半が始まる6時に一斉に各地で革命の旗を上げる段取りであった。革命軍はケレスの合図を今や遅しと見守った。

 国立競技場ではおよそ5万の観衆が集まっておりチームカラーの黄色一色に染まっていた。その中にはヤペトウス国王、フェーペ大臣以下すべての閣僚が顔を揃えていた。前座としてヒペリオンの子供たちによるマスゲームが行なわれ最後に人文字できれいな三ツ星の国旗が現われ国家演奏のあと国王の建国を讃える演説が終わりいよいよ審判のホイッスルが鳴った。

 「ピーッ」

 前半がスタートした。

 前半はヒペリオンチームが得意とするヨーロッパ型サッカーで、短いパスをつないでいき左ウインウのロペスからのセンタリングをケレスが頭で決めて先制した。

 15分のハーフタイムのあと後半がスタートした。

 センターサークルの背番号「10」をつけたケレスはキックオフの後、くるりと背をむけて自分のチームのゴールめざして思い切りシュートした。故意による自殺点である。突きささるようなゴールであった。あっけにとられている審判とタイの選手たちをよそに、これが合図で観客は一斉に立ち上がり来賓席を包囲した。

 「革命だ!!」

 「国王を包囲しろ!」

 これを見てあわてふためく閣僚を横目でみながら国王ヤペトウスはゆっくりかたわらのボタンを押した、すると来賓席を包むように防弾ガラスのシャッターが降りてきて外部と遮蔽したのである。「ジェミニのせがれごときに何ができる」と言いつつ来賓席ごとスタンドの地下へ降りていった。ガラスにむかってなん発もの銃弾が打たれたが、国王までは届かなかった。

 地下のシェルターから通路を通って、国王と全閣僚はスタンドの外まで避難し各車に分乗した。「警備兵、どちらの方角が安全だ?」

 「エウロペ港湾地区、第3埠頭が比較的安全であります。」

 「よしわかった、停泊している戦艦アンドロメダに一時避難しよう。」

 あらかじめ警備を担当していた兵もみな革命軍側であった。

 アンドロメダとは旧アメリカ海軍の戦艦ミズーリ型を買い受け、新しく改装した総排水量5万2000トン、速力20ノット、主砲40センチ砲8門、副砲15、5センチ砲10門、巡行ミサイル「トマホーク」3基、ファランクス砲15門装備の第二次世界対戦中の旧戦艦とは思えないほどの重装備となっていた。

 時を同じくして別働隊は手薄になっている高級居住区の各閣僚の自宅に一斉に火を放ったのである。

 家の中から出てきた閣僚らの家族たちもまた、衛兵の運転する車で第三埠頭に続々と到着していた。

 「どうやら、革命軍が蜂起したらしい。」

 「しかしアンドロメダに乗っていれば大丈夫、中から鎮圧の指揮をとれる。」

 本間、十兵衛らを監禁している独房の衛兵たちもまたダイモス教授と革命軍の息がかかっていた。

 彼ら兵士もほとんどが、強制徴兵で村から連れられてきたようなものであった。

 「ミスター本間、長い事ご苦労様、やっと出番ですよ。」

 衛兵が本間と十兵衛の鍵を開けた

 「どないしたんや急に?街のほうがえらい騒がしいようだが」」

 「説明はあとから、今はとにかくここから逃げるのが先です。」

 衛兵は2人を伴って地下の独房から、地上に出て用意してあったジープに乗りこんだ。 「テリー、信用していいのかなあ」

 「わからん、またフェーペの策略かもしれん」

 「さあ、どうぞ皆さんがお待ちかねですよ。」

 着いたところはエウロペ港の奥にある洞窟であった。

 「この中に誰がいるんだ?」

 「それは入ってからのお楽しみです」

 鉄製の巨大なゲートがオープンした。

 「オイ、悪い冗談や!なんで大和があるんや?1/1スケールの模型か?」

 「さあ、説明はともかく、艦橋へどうぞ。」

 甲板に上がり、艦橋へのタラップをいそいでかけ昇った。

 「ホンマに大きいシロモンやったんやなあ・・・」

 海面からの高さ約40メ−トルのところにある艦橋のドアを開けたとたんに、なつかしの8名の顔が見えた

 「オウ、全員でどうした?おったまげたで。大和でパーティーか?」

 「ホンチャン、『武蔵』でっせ。ワシが改造したんや。」

 「テリー、ジュウさんお務め御苦労さん、ようこそ梁山泊へ」

 「これは一体どうしたんだ?分かりやすく説明してくれ」

 「今度の謀反の主を紹介しますよダイモス博士とケレス君だ」

 「本間や、よろしく。今どきのサッカー選手は革命までやるんか?」

 「よろしく、テリー本間と会えて光栄です。自己紹介はあとにしてアンドロメダの追尾をしましょう。遂にこの国のフィナーレが始まります。」うれしそうにユニフォーム姿のケレスが言った。 

 そのころ国王と全閣僚を乗せた戦艦アンドロメダがあわてるようにエウロペ港を出港したのち、ウラノス市民は相原の作った新大橋「エンケラドス大橋」の上に集まった。

 その中にはイオやティテスの顔もあった。

 この橋の上からは湾が一望できた。高台の高級住宅街から火の手があちこちに上がっていて港の水面に映えた。

 その国民の期待をこめて、新鋭戦艦『武蔵』がゆっくりと洞窟を出て湾内にその巨大な姿を現した。それを見た国民から大きな歓声があがった。

 いよいよこの国のカウントダウンが始まろうとしていた。

 「よし、艦内全機能異常なし、微速前進5ノットへおもかじいっぱい、敵戦艦を確認。方位右42度、距離6300、主砲発射用意!」ヒペリオン海軍の艦長が叫んだ。

 「よっしゃ、主砲発射準備や!オレにやらせてくれ。」と逃げていく敵戦艦を見ていた本間が叫んだ。

 同時にゆっくりアンドロメダの砲塔がこちらを向き、9門が一斉に火を吹いた。しかし鍛練されていないらしく着弾にはほど遠かった。

 「よっしゃ、一度この艦でアイオワ型戦艦をたたきたかったんや、日米決戦の再来や。こんなドラマティックな場面に遭遇できるとはなあ、長生きはしてみるもんや。」森が言った。

 「第一砲塔旋回、距離6500、直接照準!射角0、2、誤差修正左へ0、5度、上下角プラス0、1。よっしゃお待ち遠さん、主砲発射準備完了や。さてと、誰にギロチンのボタンを押してもらおうか?」照準器から目を離しながら本間はうれしそうに言った。

 「オレにやらせてくれ・・・オレにはその権利がある!」ポツリと谷が言った

 「よっしゃタニヤンに頼むわ。みんなかまへんな!これが発射ボタンやちょっと押すだけやからかんたんや!」

 谷が、うらみを晴らすようにボタンを押した。

 「ズン」と大きな発射の反動がして46センチが6門、火を噴いた。

 数秒後「ガガーン、ズドーン」とアンドロメダの艦上に火柱が5本上がった。

 「タニヤンうまいもんや!6発中、5発命中や。おめでとう!」

 海面が真っ赤に照らしだされたその中で、5万3000トンの巨鯨は身をふるわせながら艦尾からゆっくりと海中に没していった。

 処刑は終わった。

 「よっしゃ、作戦終了、帰投するで!」

 エウロペ港に接岸した『武蔵』を待っていたのはケレスの部下の革命軍兵士たちであった。 

 桟橋はバンダナを振る兵士たちによって黄色一色に染まっていた。

 「生ゴミの処理完了や!さながらハットトリックゆうとこやな。」ケレスの肩をたたきながら本間が言った。

「皆さんのおかげです。ありがとう。これで国民みんなが安心して暮らすことが出来る・・・」

 その夜は、国民総出のお祭り騒ぎとなった。

 

 暫定政府として、本間が元首となりその間に民衆に民主主義を説いた

 「オレは元首なんかのガラじゃあない。だいたいこんな宝石だらけの椅子に座れるか!宮殿自体オレの趣味に合わへん、『武蔵』の中のほうが気が安まってええからあそこで指揮をとるんやったらかまへん。」と最初は拒否していたがまだ残党の勢力が残っている期間はいやでも政権トップの座につかされた。

 エウロペ港内には本間が乗った『武蔵』の46センチがにらみをきかしていた。

 国内の残党がほぼ、かたずいた後、新生ヒペリオン初代元首にケレスが就いた

 

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 ・  新生ヒペリオン組閣表     ・

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 ・  総理大臣  ダイモス教授   ・

 ・  内務省大臣に富士 静也    ・

 ・  外務省大臣に森  四郎    ・

 ・  経済省大臣に谷 省吾     ・

 ・  科学省大臣に桐生 亮     ・

 ・  医療省大臣に前島 茂     ・

 ・  学術省大臣に北川 竜     ・

 ・  建設省大臣に相原 秀樹    ・

 ・  技術省大臣に東野 進     ・

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  この組閣人事がいそいでとりおこなわれた。

 防衛省、陸軍、海軍ともに一斉に廃止され各兵士はその職を開放され家族や恋人たちの待つ故郷へ喜んで帰っていった。

 職が無くなったのは本間もまた同じであった。どこの人事でも入れたのであるが本人のたっての希望で、もとの無職に戻ったのであった。

 「かまへんて、ワシらみたいな人種が必要な時代は終わったんや。まあ、あんじょうきばってええ国作ってや。」

 ケレスが新国王に就くのと平行して永久機関の実用化が行なわれた

 

 国立物理学研究所内

 「これが永久機関か、錬金術の理論を説明してくれないか。」

 「おいジュピター君、ミスター富士にわれわれの永久機関『アンゴルモア』のご説明してさしあげろ。」

 「はい、昔日本でも一時ブームになった水飲み鳥はご存じですね。理論的にはそれと変わりません、ここにある2つの液体の沸点の違いに注目してください。百分は一見にしかずでまず動くところをご覧に入れましょう」

 ジュピター教授がその機械のはしを、ちょっと下に押した。ゆっくりその機械はシーソーのように傾きはじめ先についたフェルトが台に設置してある大きなビーカーに近付きその液体を吸い上げた。その後にこの機械の動きは、全員が見守る中で止まる事は無かった。

 「このまま永久に動くのか?」

 「ハイ、閉じられた空間においては、この機械自体を動かすだけのことは出来るのですがそれ以上のエネルギーを引き出せないで困っているのです。なんとかなりますか?」

 「うーん。インバータを使ったエネルギーの増幅しかないなあ、しかしこの微弱なエネルギーでインバータを機能させる事が出来るかどうかだなあ。まあやってみましょう、何とかなると思います。」

 インバータとは小さなエネルギーを軽い羽根状のスクロールを使って増幅させる装置の事で現在でもエアコンなどで実際使用されているものである。日本のインバータ技術は世界でもトップ水準にある。

 2ヵ月間さまざまな試行錯誤の後に、この機械は見事に外部エネルギーを生み出すのに十分な性能になって完成したのである。そのエネルギーはインバータで増幅され電気も起せるし直接動力に接続する事も可能であった。増幅過程において順番に極小の羽根車を回し次に一回り大きい羽根車に連動させ、最後に車のタイヤ大のホイールを回転させるシステムで立ち上げまでに少し時間がかかる点を除いてはほぼ完璧な出来上がりであった。

たとえ子供でもその操作は簡単であった。機械のはしを一度ちょっと押すだけでその日から永久にエネルギーを供給できるのであった。この瞬間に世界中のどこででも、たとえ砂漠の真ん中であろうがアマゾンの奥地であろうが人類は常にエネルギーに困る事はなくなったのである。

加えて環境を汚すことなくいつまでもエネルギーを発生し続けるのである。

 この瞬間今までの石油、石炭はその王座を失った。

 世界中での原油価格が急落し始めた。先物市場を中心に売り物の連続で気配のまま値段がつかない日が連続した。

 オペックが緊急会議を開き今までののおよそ10分の1までの価格の維持と、恒久的な供給の約束をしたがもはやどの国も振り向く事はなかった。逆にいかに今まで暴利をむさぼっていたかが暴露されるはめになり彼らの信用は失墜したのであった。

 世界中が何世紀にもわたった石油からの呪縛から解き放たれたのである。

 そしてこの動力の発見こそが新生ヒペリオンの国名を世界にとどろかした。

 世界各国がこぞってこのパテントに飛び付いた。

 アメリカ、フランス、イギリス、ドイツ、日本と先進国がこぞってパテントを求めてヒペリオンにやってきたのである。もちろんその間、各産油国からのプレッシャーもあったが、絶対的な需要には勝てなかった。

 森のたっての主張でパテントの販売対象国には絶対制限が付けられた。いわゆる「軍備の廃絶」が条件であった。たとえミサイルの一発、戦車の一台ですら保有していたらこのパテントを買う権利がなくなるのであった。

 ここで軍需産業からの大きなプレッシャーがかかることになった。

 世界中の国で軍需産業に基づく政権と国民の間での初めての激論が交わされるケースが続いた。しかしほとんどが民衆の圧倒的勝利のもとでこの条件をクリアしていった。

 日本政府もまた例外ではなかった。自衛隊の廃絶と、日米安保条約の破棄の2つの手土産を下げてヒペリオンの首都にやってきたのである

 調印式は7月、場所は大阪の通天閣が指名された。

 7月7日、9名はひさびさに大阪の土地を踏んだ

 関西国際空港に当時のドヤの連中が集まった

 「ようっ、ワシらの出世頭!」

 「おう、森のオヤジがパリッとしたスーツ着とるで、馬子にも衣装やなあ」

 「アホッ、今は大臣さんやでえ」

 「照れるがなあ、堪忍してやあ。」

 「かっこええやんけ坊主、ゼニあるか?今日はカップ酒おごったるわ!」

 「おおきに、えらい気いつこうてもろて」

 「亮サン、どえらい事やりおったなあ!」

 「これ西成の環境整備基金や、あんじょう使うてくれや、落としたらあかんで」

 そういって桐生は日本円にして約1兆円の小切手を彼らの代表に手渡した。

 「あんたらホンマにごっつい人たちやったんやなあ」

 その夜9名は日本政府が用意してくれたホテルには泊まらずに、なつかしの三角公園でごろ寝した。

 「やっぱりここがええわ、安心するわ。せやけど明日起きたら、全部夢やったりしてなあ」本間が笑いながら言った。

 

 

 全世界の軍備が縮小され、ヒペリオンの首都ウラノスの国会議事堂にはこのパテントを買った国の国旗が並んでいる。まさに昔のハドソン川の国連事務局さながらである。

 永久動力のパテント料は10年単位でじょじょに引き下げていくようなシステムをとったが、もし10年のあいだにその国に新たな軍備の存在が発覚した場合はこのエネルギーのパテントを返還してもらう条件をつけた。

 このことによって、人類の歴史以来絶える事がなかった戦争についに終止符が打たれたのである。そして石油石炭の生物資源によって発生する、大気の汚染もなくなり、本来軍備に使われたはずの予算は宇宙開発と環境保護、エイズを始めとするさまざまな病気の研究にまわされたのであった。

 富士は自分の作ったインバータ永久機関の利権で得た利益の中から、10兆円を日本の臨時国債の購入にあてた。期間は国債としては異例の50年であった。一個人が住専問題を解決したのである。

 残った資金で9人を理事とする「世界恒久平和財団」なるものを設立し主にアフリカの難民、戦災国の難民救助、エイズ対策の基金として惜し気もなく使った。

 

 時に西暦1999年7月7日、日本のドヤ街の人たちの手によって初めて世界規模での平和がもたらされたのであった。

 

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    ・1999年7の月                       ・

    ・空から恐怖の大王がふってくる                 ・

    ・アンゴルモアの大王を復活させるため              ・

    ・その前後の期間マルス(軍神)が幸福の名のもとに支配するであろう・

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    ・1999年7月7日                      ・

    ・空からヒペリオンの大臣が空港に降りたった           ・

    ・永久機関「アンゴルモア」を普及するために      ・

    ・革命の後、軍神のような本間が元首となった   ・

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