みなさんを証券会社の舞台裏にご案内します-No.2


   6億  株嫌い客への投資信託攻撃

 3月10日  午後6時 
 「太田さん、何度言われても株は絶対やりません。これはお父さんからの遺言なんです。貯金ものだったら考えてもいいけど・・・」 
 「だったら奥様、投資信託にしましょう。4年もので最初の2年間は出金できませんが、4年満期の貯金みたいなものですよ。しかも今でしたらいい利率で回ってますよ。これにしましょう!!」
 「でも太田さんそれは、元本確定じゃないでしょ?」 
 「たしかに確定ではないですけど、当社の投資信託に限って元本を割り込むことは絶対ありませんから、是非お願いしますよ。とりあえずこの中ファン(中国ファンド)の1000万だけでも乗り換え、お願いします。」 
 「じゃあ今度きりよ。」 


 この奥様は本人は気付いてないが、この瞬間お父さんの遺言を破った事になる。
 すなわち投資信託(ファンド)とは、不特定多数のお金を何千億も集めて、その投資信託委託会社が「いける」と思った商品に無許可で投資してもよいシステムである。
 つまりこの場合株式型投資信託であれば(まあだいたいそうだが)「1000万円でどうぞ好きな株を好きなだけ買ってください。そして好きな時期に売ってせいぜい儲けてくださいな。」と言ってるのと同じ事になる。
 同じく債券型投資信託というのもあるが、こちらはたいてい70%が債券で30%の株の運用で利益(損益?)をあげるタイプで、割りにリスクは少ないが奥様が言うとおり元本保証からは程遠い。
 いずれのタイプにせよ「〜投信」と名がつけばもうそれだけで、投資する物の差こそあれ投資側がリスクを負うものである。その事の説明をきっちりすると客が逃げてしまうのでうまくぼやかしてかわすのがワザである。
 その証拠にバブル時に設定した投資信託で現在半値くらいのものはザラにあるのが現状である。  天国のお父さんの怒り顔が目にうかぶようである。


7億  国債の消化

 3月30日  午後5時
「おーい明日は何の日か分かってるな」
「わかってます。」
「今月の国債、割国の最終日やぞ、達成率はどうや」
「75%です」
「あと残り2億チョイか、100万ずつ売っていく時間がないな、じゃあ例の方法で、山本社長に頼もう!」


 投資信託の締切が終わった、30日の風景である。  次のノルマは「国債、割債」である。まったく息つくヒマもなく次々とノルマがやってくるのである。このあたりまるでゲーム感覚である、次々と立ちはだかる敵キャラを倒して次のステージへ・・・
 しかし元来「例の方法」とかで処理するものでロクな物はない。
 ここでいう「例の方法」とは、2億円分の国債を30日の夕方、山本社長に買ってもらってすぐに31日の朝、すぐに売却する方法である。
 結局1日だけ国債を抱いてもらうだけであるが、一応支店のノルマは達成した事になる。2億の国債の売買によって、証券会社にはいる手数料は約20万円である。  つまり1日国債を抱くことによって山本社長はこの手数料分の20万の損をこうむることになる。
 そして新発のCB(転換社債)などを渡してその20万の穴をうめる約束をする事が「例の方法」というわけである。
 毎月、月末が来るたびに、日本国中の各証券会社の各支店でこのような国債(割引国債)のころがしが行なわれその数だけ新発の転換社債があてがわれる図式を、国債を発行しているおおもとの日本国大蔵省がはたして知っているのか知らないのか。
 多分、知らんだろーなー
 話は変わるが、元来国債の売買というのは多分に政治がからんでいる場合が多い。
 例えばアメリカの30年長期国債の引き受けを日本の大手生保がほとんど行なっている事実をみても、明らかであろう。
 アメリカという国がブラジル、メキシコ、ペルーに貸している何千億ドルの借款の肩代わりを何の事はない、海のむこうの日本の生保、損保ひいては生命保険、損害保険を毎月かけている日本国民におしつけているだけである。
 何も日本国内でも決して情勢がよくない中、よその国の台所のめんどうをみる必要は全くないわけで、おそらく日米安保のみかえりかなにかの、しがらみのツケであろうが国民にとっては、はなはだ迷惑な話である。
 アメリカも「『例の方法』で日本に買ってもらえよ!」とか言ってるハズである。

8億  伝説の妖怪「ついたちあきない」

4月1日  午前8時30分
 「おい!全員集合だ!早く集まれ!!」
 「営業課長、ついたち商いの予約はできてるのか。」
 「はい支店長、一課、二課で東京ガスを中心に100万株寄付き予約をとっています。」
 「株価が1000円の100万株か、手数料はいくらだ。」
 「10億の買いですのでバラして500万というところです」
 「よし寄付きで買っとけ!」
 「わかりました」


投資信託のノルマの消化、国債、割引国債、外債のノルマの消化、が終わってホッとする間もなく今度はついたち商い(初日商い)というくだらない化物が証券マンたちを容赦なく襲う。
   証券会社というところは何かにつけアホみたいに縁起をかつぐところであり、この「ついたちあきない」もまたそのうちの悪い慣習の一つである。
 つまり各月の1日目は当然その月の初めのあきないであるから、本社サイドにいい顔をするために株式の手数料を気合いを入れて人工的(もっとも毎日が人工的ではあるが)に多くつくる作業である。
 しかもなおくだらないことに、筆者在籍中には、相場がよかったため毎月2回の「ついたちあきない」があった。
 1回目は前月の26日(つまり、4日後の受け渡し日ベースのついたち)と2回目は、本当のついたちである。
 このケースでいう「予約」とは前日のうちに明日の株の売買を客から注文をとる事であるが、まず支店長の顔色伺いがほとんどで、100万株の予約など取れてるわけはない。
 ただ単に朝9時の寄付きで「その日おそらく上がるだろう」と思う株をまとめて買うことによって、その日の手数料が読めるだけである。
 1000円の株(この場合東京ガス)100万株を寄付きでまとめて買った場合たいていはすぐ1020円で売りの指し値をする。そして思惑どおり1020円で売り切れた場合は「即転玉」といって、いきなりダイヤモンドと化して営業マンの醜い争奪戦が始まる。(ただしたいていは営業課長は売れた事は言わないで自分の大切な顧客にはめてしまう。)
ここで問題なのは売れなかった場合(もっと悪いのは、100万のうち例えば20万株だけ売れた場合、これは超最悪)は、その100万株の処分のために解体作業がはじまる。まるでクジラのようである。
支店内に二課あればまず、2分して各課50万株ずつ、そして各課に5人いれば一営業マンにたいして10万株のいわゆる「仕切り」がスタートする。
 この「仕切り」に関してはあまり思い出したくないシロモノなので、後に詳しく述べる事にする。

9億  自己売買(デイーラー)の破綻

 4月2日  午後2時30分
「太田、本店株式部から電話だ」
「はい太田です、はい川鉄20万株ですね。いま640円ですね。ええ、638円の2円下で20万株あるんですか。はい!なんとかはめこみます」
「社長、太田です、はい、相場は現在ダウ32500円どころのもみあいです。円高に嫌気をさして主にハイテクが売られ大型株が買われてます。そこで社長とっておきの情報として今、640円の川鉄まとめて20万株買えば2円下の638円で手に入りますが、いかがでしょう。」
「相場より2円下で買えるのか?」
「そうです、大安売りです!!」
「よし分かった、持っているパイオニア全部売って乗り換えてくれ」
「ありがとうございます!!」


 証券会社とて、一法人なので当然会社の資金運用としての株の売買は許されている。
 その部門の事を自己売買部門(いわゆるデイーラー)という。
 他の一般法人と大きく違っている点は、とにかく売買に手数料がかからない事である。
 つまり500円で買った株をわずか501円で売っても1円分はすぐに利益となる。
 このことだけでも一般投資家とはすでに大きな不平等が生じている。一般投資家は株の勝負で絶えず「手数料」というハンディを背負っているのだ!
 こんなにいい条件にもかかわらず、このディーラーという人種達は完璧に相場をはずす。見事なまでにはずす!
 あまりに相場を外しすぎるとデイーラー部の人間は自分の相場観を疑われて場合によっては、左遷ないしは部署変えとなる。いわゆる島流しだ。
 そうなったら困るので、買った株が相場どおりにならなかった場合には、仲のいい営業マンにその敗戦処理をふるわけである。
 そんな台所事情もよくわからない営業マンは2円下の玉(ぎょくと呼ぶ)でも、「いいネタ」と思ってすぐに飛び付く。悲しい性です。
 そして最後の尻拭きは当然投資家にまわってくる寸法である。
 おそらくその日の川鉄の終値はうんと下がって630円くらいであろう。
 引けで買ったほうが8円も得した勘定になる。

10億  値段のあって無いワラント

 4月12日  午後5時30分
「おい!大田!日本航空のワラント、ロンドンではどうだ?」
「値段はチューリッヒと変わってません!」
「東京マーケットで買った26ポイント100ワラント、ビット、30でクロスふ れないか?」
「30はきついですが、28なら何とかいけます。」
「よし、それで一回ふってまたその玉を30でふるようにしろ。そしたら2回転分の ワラント手数料ができたうえに即転の出来上がりだ。」


 ワラントとは聞き慣れない単語なので説明すると「新株引き受け権付き社債」の事で、この最後の「社債」という単語にほだされて散っていった投資家の数は計り知れない。
 このワラントの買いの事を「オファー」、売りの事を「ビット」と呼ぶ。
 これがまた、なかなかハイカラな言葉で結構、支店内で大きな声で言う時などカッコいい。
 事実。ワラントを大きな声で売買してる姿は女性社員からの注目の的であった。
 それはさておき、信じられない事であるがワラントの値段というものは日経新聞にも載っていないのである。(もっとも載せられては証券会社が困るのだが。)
 一般に日経新聞に載っているワラント価格は、分離型ワラントの社債部分、つまり安全な方の価格である。これを「安全君」と呼ぼう。
 当世問題になっているのは、切り離したあとのワラント(新株引き受け権利)の事である。これは「超危険君」。
 昭和60年代にワラントの分離というものがスタートしてからは専らこの危険なワラントばかりが売買の対象になってきた。
「超危険君」は分かりやすく言えば時限爆弾付きのババぬきゲームと考えてもらえばよい。
 さらに悪いことにそのババぬきのカードの数字を本人には全く知らされず、参加者全員のカードを知ってる人(証券マン)によって時折数字を知らされるだけの非常にスリリングなゲームである。
 時限爆弾というのは多くのワラントは、5年物か7年物で、買った日から残りの期間の間に次の人に売らずに持っておれば最後には価値が0になるからである。
 ただしいい面もあって、株と連動しているので株が上がれば、その約3倍のスピードであがっていく性質も持っている。(これをギアリング効果という。)
 当時は株が猛スピードで上昇した時であるから、当然このワラントもぐんぐん上がっていった。上昇している時のワラントほど乗り心地のいいものはない。
 しかし一旦株が下がりだしたら、ワラントの下げもまた「3倍」でやってくる。
 この「3倍」という甘い言葉にひかれてほとんどの投資家がワラントの性質も知らずに泥沼に突っ込んでいったのである。 
 現在、ほとんどのワラントが、期限切れで価値が「0」になっている。
   ご忠告!ワラントは「万馬券」みたいなもの!なくなってもいいお金で張ってね 
                

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