・ ヒペリオン入国 ・
桟橋には、内務大臣フェーペが先回りして来ていた。
「お疲れ様、ミスター本間。よい航海でしたか?」
「アホ、殺すんならさっさとせんかい。せやけど他のやつらは関係あらへん、助けてやってくれや!武士のなさけや!」
「ハッハッハ、まだあななたたちの立場がわかってないらしい、おい皆さんを宮殿にご案内しろ。」
「ハッ」
「おい聞いたか『ご案内』やて、なぶり殺しすんのももたいがいにしてほしいなあ」
9名が大型のリムジン5台にそれぞれ2人ずつ分乗して宮殿に向かった。
本間だけが1人で、フェーペと同乗であった。
「おいフェーペのおっさん、下の200人はどないした?」
「わが国一流ホテルで今頃は一汗流してるころでしょう。」
「ほんまかいな!その言葉、信じてええんやろな・・・」
「どうぞ、ご自由に」
5台のリムジンがゆっくりと宮殿の入口に近付いた。
宮殿の正門には20名ほどの衛兵が並んで銃を立てて出迎えた。
ゆっくりと自動の門が開き、さらに車は進んだ。
宮殿は東洋圏とイスラム圏と混ざった様式で、ちょうどインドの有名なタージマハール宮殿に酷似していた。
その造りは金にあかしてふんだんに宝石をちりばめた荘厳な黄金宮殿といったところであろうか。全員がその広さと豪華さには圧倒されていた。
「これは、噂以上のシロモノやなあ.....いったいどこにこれだけの金があるんや?」建築家の相原は仕事上興味ありげに車の窓を開けた。
全員が正面玄関でリムジンをを降りた後、真っ赤な絨毯の上をどのくらい歩いたであろうか、大きな扉の前で案内の衛兵が立ち止まった。
「どうぞ、お入りください。一応身体検査はさせていただきます。」
本間の服からどこに隠していたのか、まだナイフ、注射針、ピアノ線が出てきた。
「大事なもんやから後でかえしてや」
ケロッとしている
・ 宮殿内、国王室 ・
ゆっくりと部屋に入らされて真ん中の大きな丸テーブルに9名全員が強制的に座らされた。
まわりを見れば見るほど豪勢な造りの部屋である。シャンデリアひとつとっても何千万もするようなものであった。
おのおのの背後には銃をかまえた兵士が一人ずつ付いていた。
全員憮然とした表情でこれから行われることを待った。
「みなさま、国王さまが、お越しになられました」衛兵が伝えた。
「みなさん、国賓ですからリラックスして座っていて下さい。わたしの方からご紹介します。」あとから入ってきたフェーペがそう言った。
ゆっくり、国王ヤペトウスが入ってきて、両手を差し出しながら大きな声で
「皆さんようこそわがヒペリオンへ、わたしが、国王ヤペトウス2世です。船の上ではだいぶん準備運動をされてきたようですな。結構結構、その元気をぜひわが国のために今後はお使いください。おいフェーペ」
「はい、それではご紹介させていただきます。むかって右から・・・・」
全員が同じようにポカンとしている間に9名の紹介が終わった
「すばらしい!実にすばらしい方たちだ!みなさんのご協力を心から感謝いたします。今日からみなさんには最恵国待遇としてヒペリオンのビバリーヒルズとも呼ばれる豪邸に住んでいただきます。美人秘書もおつけしますので、こころおきなくこれからの仕事に励んで下さい。」
衛兵に案内されて狐につままれたようなまま9人は退席した
「なんや、あのひげじじい。勝手に仲間みたいなこと言いおってから」
「おい殺されるどころか最恵国待遇やで、カン狂うなあ」
「まあとにかく命は助かったんや、ゆっくり作戦でも練ろうや」
コソコソと宮殿の廊下を歩きながらの会話であった。
宮殿からさきほどの車で約10分の所にそのビバリーヒルズはあった。
「おい、なんと贅沢な造りなんだ・・」相原が言った。
「贅沢づくしか!!」と同乗の前島
「なんやわけがわからんけども、一時休憩や、考えるんはその後にしょうや」
各人、家が振り当てられ、門の前には秘書の女がそれぞれ迎えに出ていた。
「みなさん、行動は自由ですが、今晩のパーティーには必ず来てください、おっと本間さん違うパーティーと間違わないように、あなたはパーティーが好きなようですから、それでは・・・」
めいめいは用意された家に車で送られ、出迎えに来ていた美女を伴って部屋に入っていった。
ビバリーヒルズとはよくいったもので、すべてが1000坪はゆうにある広大な敷地の中にあるプールつきの白亜の大豪邸であった。
時間は夕方の7時くらいであろうか、遠くに先程の宮殿の塔が見える。南国の風が心地よく本間の顔に当たっていた。
「あれだけ暴れたオレをこんな大豪邸に住まわせるのか・・・」
「ミスター本間、わたしがこれから24時間の世話をさせていただきます。」
美形の足がすらっとしたチャーミングな女性が流暢な日本語でそういった。
「名前を聞いとこか?」
「イオといいます、よろしく」
「全員、アンタみたいな美形の女の子がついとるんか?」
「ハイそう聞いております。」
「そうか、ほなあんじょうよろしく!それはそうと、電話をかけたいんや、他のメンバーの番号は?」
「専用回線ですので、名前の下のボタンを押して下さい。ただ会話の内容は全てチェックされていますのであまり秘密計画はなさらないようにとの事です。」
「チェッ、やけに念がいったことやなあ、まあ正直に言うところが素直でよろしい。」
「それより先にお風呂はいかがですか?」
「おう、一汗流そうか」
熱帯植物の中にある広いジャグジーに浸かりながら、本間は大阪からここへ来た道中をゆっくり回想していた。まるですべてが夢のようであった。空には真丸の月が煌々と庭園を照らしていた。
いつもなら三角公園で連中とどぶろくで酒盛りを始める時間である。
「ご一緒、してもよろしいですか?」
とイオが一糸まとわぬ姿でワイングラスを2つ持ってジャグジーに入ってきた。
ひきしまった小柄なボデーには不釣り合いなほどの大きな乳房はツンと上を向いていた。
「ああ、かまへん好きにしてくれ。」
本間はあまり女性には興味がなかったが、彼女のすばらしいボディーは女嫌いの彼をしても気持ちをそそるには十分であった。ピンクの乳首は、月のあかりに妖しく光っていた。
本間はそんなことはおかまいなしで空をぼんやりながめながら、南イエメンの戦闘を思い出していた。「あの時のお月さんと、おんなじやなあ......」
南イエメンで死んでいった部下たちの顔を、ひとりひとり回想しながら、「みんな、オレの人生は一体なんなんだろう?あの時みんなと一緒に、地雷でふっとんでいたほうがどれだけ苦しまずに済んだろう。スマン、オレだけ生き残って・・・」
いきなり爆発した思いで、腕の中のイオを抱いた。さすがに女ぎらいの本間も一匹の雄と化したのち、ゆっくりと気をやった。あまりの激しさにイオはとっくに本間にもたれるようにして失神していた。
しばらくそのままの状態でまどろんだ後、ある作戦が閃いた。
まだ結合した状態で本間はイオを抱いたまま、ジャグジーを出てベッドルームに入っていきゆっくりと一物をはずした。
「おやすみな、べっぴんさん」とイオの上にガウンを羽織ってやった後、本間は応接ルームに戻り連絡をとる準備にかかった。
「十兵衛はどこやったかな?たしか首都の『ホテルウラノス』やったな。」
盗聴されてるとわかっている電話で十兵衛の部屋につないでもらった。
「ジュウ、頭巾や。ホタルの話をしよう。」
頭巾とは「ききみみ頭巾」のことで盗聴されてるという意味、ホタルは、符丁で会話をしようという傭兵時代のサインである。
その後2時間ほど、綿密な打ち合せをした時、ガウンをまとったイオがゆっくり近付いてきて言った「さっそく謀反はダメよ。それより第2ラウンドにしましょう、その後は宮殿でパーティーがあるから2人で一緒に行きましょう」
その頃、東野は、職業柄自分のあてがわれた豪邸が、最新メカニズムで装備されているのを確認していた。
防犯用というより脱走禁止用のレーザー光線、温度感知システム、各部屋には盗聴器、熱センサー。おそらくこの地域ごとレーダーが張られているであろう。
「われわれはたしかに優秀だが、信頼はされてないという事か・・・」
北川は年が若いだけにさすがにこの贅沢さには素直に感動した。
「昨日までの生活は一体なんだったんだろうか?狭い公園で、寝るスペースをめぐっての口論や、食堂の残飯を犬といっしょに食った事が幻のようだ・・・」
広大な中庭の芝生の上で、ぼんやり月を見ながら考えた。
「彼らの言ってる事ははたして間違っているのだろうか?国家というものはそもそも何なんだろう、人の自由を束縛する権利があるのかないのか?むしろひどいのは日本の方ではないのか・・・」
「なに、難しい顔してるんですか?日本の若い人わたし大好き」
北川の秘書であるティテスが、横に座って彼の頬にキスをした。
「日本ってどんな国ですか?大阪ってどうでしたか?教えてください。わたしのお父さんは占領時の日本の事しか教えてくれません、だから悪口ばっかりで大変。ホンダ、パナソニック、ソニー、ミツビシいろいろ教えて」
思えば北川にはこの娘に語ってやれる日本の長所がひとつも思いつかなかった。
北川龍は神戸の出身である。スラッと背が高く、ミナトっ子らしく洗練された顔つきはとても学者とは思えなかった。
彼は地元の進学校の灘高校を卒業後、京都大学の地学科を専攻した。
彼には子供のころからの特技があり、それはテレビ電波を知覚できるというものだった。
家のテレビがついてるかどうか、別の部屋にいても左の耳にピーンという音がすればついているし、音が無い場合はテレビは切れている状態である事が区別できるのである。
そしてある日、日本各地でひんぱんに起こった地震の前の日にも、決まって左の耳がピーンと鳴るのに気付いたのだ。
このことにより彼は地震の前にはなんらかの電磁波が発生するのではないか、しかもその周波数はテレビの周波数に極めて近いものではないかの推論に達したのである。その推論を実証するために、京都大学で地震学を勉強し、20代後半で地震研究所所長まで昇りつめたのであった。
京大始まって以来の秀才とうたわれた。
その彼が西成に身を投じたのは、1995年1月17日の阪神大震災がきっかけであった。
当然のことのように前日の夜9時ごろ彼の左耳がいつもより大きくピーンと鳴った。
すぐに研究所に電話して地面からの電磁波を調べるよう指示した結果、確かに関西圏からある周波数で電磁波がでているのを確認した後、テレビ局に通報したところ、「いくら地震研究所の所長さんの言っている事でも信憑性に欠けています。へたに注意報など出せばかえって、パニックを引き起こす元になります。」とどの局にもあざ笑いされながら断られた。
気象庁に通達しても反応は同じであった。
逆に「先生、気の使いすぎですよ。しっかり休養をおとりになったらどうですか?」とまで言われる始末だ。
「しかしたしかに来るぞ!まちがいなく大きいのが!」
次の日の朝5時46分、それは起こった。
彼は自宅が東灘区であったために強烈な揺れで叩き起こされたのだ。
「やはりきたか、しかしまさか神戸に来るとはなあ!」
震度7の激震であった。地震観測史上、最高の数字であった。
救急活動もなにも無い中、死んでいった人の死体が母校の灘高校のグランドに何十体も並んでいるのを見て彼は泣きながら思った「オレ以上に、この地震の予知に関してマスコミ、政府に対して意見できた人間はいなかったはずだ、そのオレの意見を連中が無視しなかったらこの人達の何割かは死なずに済んだはずだ!本当に申し訳ない、もっと強引に言うべきだった・・・6000人はオレが殺したようなものだ・・・」
この日以来、彼の姿は京大地震研から忽然と消えたのであった。
「なにもかもわからん、夢なら醒めるなという心境だよ」
すべてを忘れようと北川はティテスを思い切り抱いた。
南国のあたたかい風が2人を男と女にした。
・ 宮殿内の晩餐会 ・
9時から始まった宮殿でのパーテーは豪勢を極めたものであった。
料理、酒、女どれをとっても彼等が日本では経験した事のないレベルであった。
桐生ら全員が、超美人の秘書を連れての参加だった。
「オイ、リョウサンもいい目をしたんか?」とニヤニヤして森が聞いた
「ああ、今後の事はとりあえず忘れて、イカさしてもらったよ」
9名全員がスッキリした顔での、晩餐会であった。
「悪くない」と、一番年の若い北川がつぶやいた。
「ああ、これがリッチな旅行と思えればな」と前島
「若い連中はだいぶ超リッチな接待にほだされていますねえ」と谷
「早急にわれわれの意志を確認する必要性があるなあ」桐生が言った
「今日のところは、みんなとりあえず協力するふりをしておこう、作戦はたててあるから後日説明する、しばらくは従順な態度でいこう」と本間が言った
「大石蔵之助ってわけか」相原がつぶやいた
続く.........
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